「私は子供が二人おります。一人は手が付けられない子供でして、母親の葬儀にも現れず20年以上顔も合わせていません。
いま一緒に住んでいる子に全財産を渡したいのですが、そういった遺言は可能でしょうか」
相続人の一人に財産を多く相続させる旨の遺言があった場合、その分他の人が受け取る財産が少なくなります。
遺産分割協議であれば話し合いに基づくので、不公平と思えばその場で協議できますが、遺言や死因贈与による場合は故人の意思で相続分が決まります。
そのような場合に相続分の減った相続人に認められているのが遺留分侵害額請求です。
「遺留分」とは、民法上、最低限保障されている相続人の取り分であり、遺産の一定割合が「遺留分」となります。
遺留分は故人の意思にかかわらず、相続人が確保することができるため、他の相続人が過大な財産を取得し、自分の相続分が遺留分よりも少なくなった場合には、遺留分に相当する金額の支払いを請求することができます。
2019年以前は遺留分減殺請求と呼ばれ、不動産も遺留分の割合に応じて共有状態になってしまいましたが、法改正により金銭による請求権のみに限定されました。
遺留分が認められているのは、配偶者と子供、親です。兄弟姉妹や甥姪が相続人になる場合には認められていません。
《遺留分の割合》
〇 配偶者または子供が相続人である場合は、法定相続分の2分の1です。
〇 親(直系尊属)のみが相続人である場合は、法定相続分の3分の1です。
例) 配偶者と子2名がおり、子の一人に全財産を相続させる旨の遺言があった場合
法定相続分 遺留分
配偶者2分の1 → 4分の1
子 4分の1 → 8分の1
今回の事例では相続人は子2名のみですので、子は遺留分として故人の遺産の4分の1をもらう権利があります。
民法1048条
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
相続の開始と、遺留分の侵害があったことを知ってから1年ですので、単に死亡の事実を知っただけでは時効は進行しません。
相続開始の時(死亡してから)10年経つと、仮に一切事情を知らなかった場合であっても、遺留分の請求はできなくなります。
2名の子のうち1名に全財産を相続させる遺言は有効です。
ただし、もう一人の子には遺留分が認められますので、請求された場合は、受け取った子は遺留分に相当する金額を支払う義務があります。
しかし、請求されるかどうかはその時でなければ分からない上に、遺言がなければ死後に子供同士で遺産分割協議が必要になってしまうため、今回のような事例であれば、子の一人に全財産を渡す旨の遺言は残された子にとっては有効と言えます。